[書評]本好きがビジネス書として読めた異色のメイク本『今の自分に合うメイクの正解』

「5S」と「ボトルネック改善」に心躍る、業務改善オタクの私

工場のイラスト


私は子どもの頃から、工場や製品の改善ドキュメンタリー番組を見るのが大好きでした。 町の小さな工場の社長が、さまざまな苦難に立ち向かう。
やる気のない従業員、古い機械設備、冷徹な取引先。

工場のボトルネックを探し、整理整頓(5Sの徹底)など基礎から業務効率を上げる。
そして最後は、隠れた強みを活かした独自製品で業界に一石を投じる。

特殊な才能を持つ革命家の話よりも、泥臭い現状認識と反復の物語に惹かれます。
組織が少しずつ生まれ変わるサクセスストーリーがたまらなく好きなのです。
工場勤務の経験はないのに、工場改善手法の本を何冊も読んでしまうほどです。

合わない「部分最適の手順書」への絶望:10年間メイク本を遠ざけた理由

一方で、私はここ10年、メイク本を一切買っていませんでした。 「メイク」も「作業改善」も好きな私が、なぜでしょうか。

美容に無関心だったわけではありません。 10代の頃から雑誌などで情報を集めるのは好きでした。 でも、どの本を見ても「小顔で平行二重のおしゃれな土台」があるから良く見えているだけ。 同じ製品で自分の顔を飾っても、きれいになれないと気づいてしまったのです。

奥二重のメイクをする女性

最後に買ったのは「奥二重・一重の人のため」のメイク本でした。 自分なりにメイクを改善しようと自分と向き合った結果です。

「二重まぶたじゃないからダメなんだ」と思い至り、今度こそと期待して買いました。
そこには、リアルな奥二重のモデルの顔が載っていました。 アイシャドウを塗る範囲なども、細かく指示されていました。

でも、その手順通りにやってもきれいになれませんでした。
一口に奥二重といっても、まぶたの形は多種多様です。その本のやり方は、私の目には合っていなかったのです。

工場改善事例風にいえば、「正しく自分の顔を把握できないまま、自分に合っていない『部分最適の手順書』を買ってしまった」状態でした。

それ以来、私にとってメイク本は「夢を売ってコスメを買わせるもの」になりました。 私には使えないテクニックばかり載っている、と感じるようになったのです。

写真の通りに塗装する「ライン作業」からの脱却。“自立したコンサルタント”を目指す本

転換点:言われた通りに塗装する「ライン作業」からの脱却

今の自分に合うメイクの正解

そんなメイク本嫌いで本好きの私が、久々に手に取ったのがこの本です。
YUTA.著『なんとなくの自己流から抜け出す 今の自分に合うメイクの正解』(日本実業出版社)。
本好きの方なら、共感していただける感覚があると思います。
普段読まないジャンルなのに、なぜか「これは私に必要な本だ」と直感的にわかる感覚で自然に手に取りました。

読んで驚愕しました。 私が漠然と抱いていた「メイクテクニックを集めてもきれいになれない」という不満。
その理由がはっきりとわかったのです。

工場のイラスト

この本は、読者にやさしく寄り添う読みやすいトーンで書かれています。
「ビフォー・アフター」の提示ではなく、自分自身の顔を観察し、最適解を導き出す力を養うためのワークから始まり、年齢による変化も含めた「今の自分」を認め、輝かせる方法。
さらには、1ミリの線を正確に描くための姿勢や肘のつき方まで。

しかし、その慈愛に満ちた言葉の裏側で、読者を導くステップは驚くほどロジカルであり、完全に「作業改善の成功法則」に則っていたのです。

多くのメイク本は「モデルのまぶたにどの製品をどう塗るか」という指示書です。 対して本書は、まず「今の自分を正しく把握すること」を求めます。
工場でも、同じ製品を同じ機械で作る場合、環境によって工程調整が必要です。 ましてや、顔という千差万別な素材を扱うメイクです。 「美の正解」という未達の領域を目指すのに、全員同じライン作業で改善できるわけがありません。

この本は、写真を真似して顔を塗装する「作業マニュアル」ではありませんでした。 自分自身の顔を客観視し、最適解を導き出す「自立したコンサルタント」へ読者を引き上げる一冊だったのです。

プロの「暗黙知」を「形式知」化する

この本では、メイク作業に入る前の「メイク以前」の工程が具体的に書かれています。 メイク前にやるべきことがこんなにあったのか、と驚かされました。

「メイク」は一つの作業です。 だからこそ、現状分析とボトルネック改善で、誰でも今よりよい状態を作れます。 この本はそれを証明してくれています。 現状分析と課題を特定したあとに、環境整備や作業姿勢の改善方法が解説されるのです。

作業改善エピソードが好きな私が、なぜ今まで「メイク以前」の工程に気づけなかったのか。
不思議でしたが、恐らく「メイクはセンスであり、論理的な改善ができない領域だ」という思い込みがあったのだと思います。

酒造工場

ここで、私の大好きな獺祭(だっさい)の工場のエピソードを思い出します。 当時、「杜氏しかノウハウを知らない」のが当たり前だった酒の製造工程。 それを徹底的にデータ化し、再現可能な製造方法を定着させた話です。 酒造業界において、杜氏のノウハウは聖域でした。 うまくできなくても「今年は酒の神様が降りてこなかった」で済まされていたそうです。

このエピソードと照らし合わせると、著者のYUTA.さんのすごさがわかります。 普通のプロなら感覚でやっているであろう「暗黙知」を徹底的に言語化しているのです。 鏡の前にどう座るか。どうすれば筆がブレないか。 そういった物理的な姿勢や筋肉の使い方までマニュアル化されています。

メイクをする部屋

「アイシャドウを薄く塗ります」といった抽象的な指示ではありません。
最適な環境作りにまで言及されているのです。 コスメの配置を工夫して認知負荷を下げ、効率的な動線を作る。
化粧品の酸化リスクを説明し、在庫管理やライフサイクル管理の概念まで導入する。

これにより、メイクは洗面所での「運任せの作業」から脱却します。
自室の鏡の前で行う「何度でも同じ結果が出るルーティン(儀式)」へと標準化されるのです。
私ももともと洗面所で立ってメイクをしていましたが、環境改善のために鏡を買い、今は自室で座って行うようになりました。

他人の成功事例(理想の顔)を追わず、泥臭いワークで「現場のデータ」を定義する

メイクツール

この本は、「根底にあるもの:自分」「大事にするもの:メイクと美容の基本」「移り変わるもの:流行やツール」という3つの層で構成されています。
多くの人は、一番上の「流行やツール」だけを求めがちですが、本書では逆三角形のピラミッドのように、土台である「自分」と向き合うことこそが、メイクの呪縛から解き放たれる正解であると説いています 。

本来、自分の顔と向き合い、メイクという作業をするのは自分自身であるはずです。それなのに、私はこれまで「メイクの正解」を他人にばかり求めていました。本書を通じて、自分の未熟さに気づきました。

私がこの本のメソッドを実践しやすいと感じた最大の理由は、「他人と自分を比較する工程」が一切ない点にあります。 本書には、一般的なメイク本には必ずある「ビフォー・アフターの写真」が掲載されていません。これは美容本としては異例ですが、この「あえて載せない」という選択こそが、読者を不必要な劣等感から守り、自立心を育んでくれるのです。

ワークの中では、自撮りや言語化を通じて自分の顔と徹底的に向き合います。 最初は自分の顔を直視して「あまりいい顔じゃないな…」と落ち込むこともありました。

しかし、そのネガティブな感情は、これまでのコンプレックスとは質の違うものでした。「今はまだ不十分だけれど、ここから変えていくんだ」という、前向きな決意を含んだプレッシャーだったのです。

これまでの悩みは他人との比較でしかありませんでしたが、自分の顔だけを基準に課題を見つめ直せたのは、今回が初めてのことでした。

本の通りに改善を重ねるうちに、「なんとなくダメだ」という曖昧な感覚を言葉にする大切さに気づきました。 「ここに影があるから、こう補正しよう」と論理的に考えられるようになると、悩みは「解決すべき課題」へと変わります。

手っ取り早いテクニックだけでは、その場しのぎの安心しか得られません。 まずは泥臭いワークを通じて、自分の顔という「現場のデータ」を正しく定義すること。その土台がなければ、どんなに優れた化粧品やツールを取り入れても、本当の意味での改善には向かえないのです。

手持ちの資源の最大活用と一生使えるフレームワーク

メイク本に関心がないビジネス層や活字好きの読者にこそ、この本の良さを知ってほしい。 そう思うからこそ、この本が与えてくれる価値を、あえてビジネス用語で紐解いてみます。

デパコスなどの新しいリソースを外部から調達し続ける経営は、コストがかさみます。 当然、持続性も低くなりますよね。 しかし本書の内容は、ほとんど「今持っているツール」で取り組めるものばかりです。 つまり、「自分の顔」という既存資産の運用効率を最大化する「持てるリソースの最適化」をとっているのです。

他人の正解(競合他社の成功事例)を真似るのではありません。 黄金比という普遍的なコンパスを使って独自戦略を立てる。 顔全体のバランスが崩れることを防ぐ設計図(顔の起点)を描きやすくしてくれます。

読みながら、繰り返し問いかけたくなりました。 なぜ今までこんな本がなかったのでしょう。 これこそ、多くの女性が求めていた道しるべのはずなのに。 「美容業界や既存のメイク本が、夢(なりたい顔)とプロダクト(化粧品)を売る短期解決型のビジネスモデルだから」というのは、うがった見方でしょうか。 プロの現場でも、技術を標準化してコモディティ化させるより、「自分にしかできない魔法」として属人化させておく。 その方が、市場価値を維持しやすかったはずです。

しかし著者はそのタブーを破りました。 完成された製品を売る「カタログ」ではなく、製品を設計するための「仕様書」を女性に届けてくれたのです。 アドバイザーがいなくなった後も、クライアントが自走できるように。
読者に一生使える「思考のフレームワーク」を渡してくれたのだと思います。

「今日の私にはこれが必要」自分でメイクの正解を決める

自分の人生の主導権を自分の手に取り戻す

この本のユニークな部分は、合理的な改善の仕組みだけではありません。 単に実利的な情報を与えるのではなく、共感や寄り添いの言葉で優しく語りかけてくれます。 読者の自己改革の道のりに、しっかりと伴走してくれるのです。

思い返せば、20代前半まではメイクが楽しかったです。 「メイクの正解を与えてくれる情報を辿れば、もっときれいになれるはず」という夢と希望がありました。 ドラッグストアで新しいコスメを買うだけで、理想の自分に近づいていく錯覚も楽しめました。

でも、20代半ば以降、メイクは私にとって「終わらせないといけない作業」になりました。 「どんなテクニックやツールを使っても、私は私以上になれない」というあきらめを知ったからです。 流行を取り入れようというモチベーションも喪失しました。 大学時代と同じメイクを続けては、さらに自信を失っていく。

これは、多くの女性が経験することではないでしょうか。

古い地図で座礁してしまう船

誰かが描いた「古い地図(メイク手法)」に沿って進むだけでは、季節や加齢などの変化に対応できません。 年月を重ねるごとに「今の自分」と乖離していく。 「メイクの正解」に到達するどころか、自己否定の嵐に襲われ、座礁してしまうのです。 他人の正解を求めている間は、「自分はまだ足りない」という欠乏感に苛まれ続けます。

そんな状況にある女性にとって、この本は行く先を示してくれる灯台です。

自分軸のメイク

自己分析と自己決定を繰り返すこと。 自分を軸にしたまま美しくなれることを教えてくれます。

自分の現在位置を正しく把握し、顔の起点を決めて正しい地図を描く。 そして、黄金比という普遍的なコンパスを使いながら、最適ルートを導き出す。 他人の顔を起点にしたテクニックではなく、自分の顔と向き合うことの大切さが詰まっています。

他者軸で模倣メイクをしていた時期。 メイクがただの作業となっていた時期。

それらを経て、また前向きにメイクできるようになったことが、私にとっては最大の変化でした。

内面と外面、両方から自分の軸を整えることで、メイクだけでなく表情も自然と明るくなります。 自分と向き合い、手を動かして、泥臭く積み上げた経験。 それは「私は私の手で自分を最高にできる」という揺るぎない自己効力感に育ちます。

そして、メイク以外の日常にも良い影響として浸透していくはずです。

「今日の私にはこれが必要」と自分で決める力を育むこと。 それは、自分の人生の主導権を取り戻すことそのものです。

少しでも気になった方は、ぜひ一度お手に取ってみてください。

今の自分に合うメイクの正解 – 日本実業出版社

今の自分のメイクに納得、満足していますか? プロのヘアメイクとして第一線で30年、女優やモデルをはじめ2万人以上を変えた、インスタやYouTube等で話題のYUTA.が、意外と知られていない「メイクと美容の基本」を全部教えます。

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